中上健次電子全集10 『物語文学への越境』
中上健次
本体1946円 + 税
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内容紹介
中上健次“物語文学”『宇津保物語』『重力の都』と未完作『鰐の聖域』を収録。『重力の都』は谷崎へのオマージュでもある。
『宇津保物語』は、同名タイトルの日本最古の長編物語の翻案作品。本編は親子四代にわたる琴の伝承譚(たん)。中上が注目したのは、「北山のうつほ」で育った仲忠の異能と、この物語的なトポスとの関係であった。エッセイ「賤者になる」(『風景の向こうへ』所収)で作家は、「うつほ」を「疑似神話空間」であり、「現実の被差別部落と同一の働きをしているのではないか」とさえ言う。波斯(はし)国(こく)に漂着し、帰国後結ばれた女に秘琴と秘曲の伝授を施す俊蔭の孫・仲忠は、「北山のうつほ」という都(みやこ)周縁の秘境から都に帰還する貴種である。この物語的な流離を、中上は自身の作品世界に引き寄せたのである。
『重力の都』は、六篇からなる連作。「あとがき」で作者は、この作品を『春琴抄』を引き合いに「大谷崎の佳作への、心からの和讃と思っていただきたい。『重力の都』で物語という重力の愉楽をぞんぶんに味わった」と述べている。
『鰐の聖域』は晩年の未完作品の一つ。紀州熊野サーガ(物語群)の一角をなすはずの作品だった。ここでは、サーガの中心人物・竹原秋幸の長姉、次姉の子の世代、孫の世代が登場し、新たな物語の火種を仕込まれるのである。
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