数少ない歴史小説『雪の朝』『橋の上』を始めとして、立原晩年の作品を中心に傑作短篇15篇を収録。
『雪の朝』は、立原作品には異色の史実に材をとった作品で、桜田門外にて暗殺される大老・井伊直弼の心の内面に立ち入った小品。若き日に「たか女」を通じて体得した直弼のエロスの情念が、晩年の死の瞑想と結びつき、「死とエロス」が雪の朝の終幕で昇華するのだった。
『橋の上』は新撰組隊員の永倉新八が、両国橋の上で、かつての仲間で今は官軍にいる鈴木三樹三郎に出会った時に、剣の実力で劣る相手に何故か「斬られる」と感じてしまう……。敗者となった新八の心理の微妙な変化を描いた作品である。
また、『交喙の嘴』は、すれ違ってばかりの男女が、ようやく互いの本当の気持ちに気がついて新たな一歩踏み出そうとしていく、立原には珍しいハッピーエンドで終わる小品で、「女性セブン」昭和43年1月号に掲載された後、単行本には収録されなかった貴重な作品でもある。
その他、台風の雨漏りが心配で昇った屋根裏から落ちて大怪我をした実体験を元に描いた作品『吾亦紅』のほか、『荻野村にて』、『山椒の木のある家』、『埋火』、『一夜の宿』等、哀愁に満ちた佳作短篇15篇が収録されている。
付録として、長女・立原幹氏が父の思い出を綴る「東ケ谷山房 残像 二十二」、妻・光代が夫との日々を回想する「追想---夫 立原正秋」(後篇)など関連エッセイ4作を収録。
※この作品にはカラー写真が含まれます。
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