漁師町の人たちとの交流を描く自伝的小説。
——巨大なかじきであった。かじきは二度、三度と海上に躍り上った。嘴だけではなく、かじき全体が鋭い大きな刃物のように見えた。かじきは海を裂き、空を切った。かじきの怒りが、必死の抵抗が、空や海を圧していた。その迫力に、私の全身は震えた。——
東京の家屋敷を売り払い、母親とふたりで鴨川の漁師町に流れ着いた〈私〉。売れない画家であったが、手元のお金もさみしくなり、漁師の手伝いをして小銭をもらっていた。荒波にもまれる小船の上の生活は厳しいが、烏賊、蛸、鰤、鯖、鰹といった房総の恵みと、漁師たちとの濃厚な交流が心地よく、いつしかすっかりこの町のとりこになっていた。
——海人の生活が原始的であるが故に、却って私は強く惹かれるのであろう。——
著者自身「最も気に入った作品」と言い切る自伝的小説の名篇。
| 2026 | 4/30 | 木曜日 |
| 2026 | 5/1 | 金曜日 |
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